研究内容

われわれの研究室では、抑制性神経細胞の多様性生成原理、局所回路形成メカニズム、サブタイプ特異的機能を明らかにし、大脳皮質の構築原理、機能の理解を深めたいと考えています。これら未知の問題に挑戦するため、遺伝学的操作が簡単なマウスを用い、最先端の生体内イメージング技術、分子生物学的手法、ウイルス学的手法、発生生物学的手法を組み合わせ、種々の実験を行っています。

 

(シャンデリア細胞プロジェクト)

抑制性神経細胞サブタイプのうち、われわれは特に、シャンデリア細胞と呼ばれる神経細胞に注目し、上記の問題に答えようとしています。シャンデリア細胞は、興奮性主細胞の軸索起始部のみを特異的に神経支配しています。軸索起始部は、活動電位と呼ばれる軸索を伝って流れる電気信号の発生場所であることから、ここを直接神経支配するシャンデリア細胞は、興奮性主細胞に対し、もっとも強力な抑制効果を及ぼす細胞だと考えられています。また、この細胞は、統合失調症、てんかんなどの脳疾患においても深い関わりがあると指摘されてきました。近年、われわれのグループは、大脳皮質内におけるシャンデリア細胞の誕生時期、誕生場所を特定し、マウス遺伝学を用いてシャンデリア細胞を可視化、操作する手法を世界で初めて発表しました (Taniguchi et. al., 2013)。また、最近、海馬におけるシャンデリア細胞を可視化する遺伝学的方法を開発し、大脳皮質と海馬のシャンデリア細胞の形態学的、神経化学的違いを明らかにしました (Ishino et al., 2017)。さらに、発達途上のシャンデリア細胞を観察することにより、シャンデリア細胞は初めに多数の軸索を伸ばし、途中でその幾つかを刈り込むことによって特徴的な形態を獲得することを明らかにしました。このダイナミックな軸索形成にも関わらず、錐体細胞上へ作られるシナプスは初めから正確に軸索起始部に形成されることも明らかにしました (Steineck et al., 2017)。現在、以下のプロジェクトが進行中です。

 

(1)シャンデリア細胞の運命決定に関与する遺伝子プログラムの同定、解析

(2)シャンデリア細胞が軸索起始部特異的シナプスを形成するために必要な分子メカニズム

(3)シャンデリア細胞の軸索分岐に必要な分子メカニズム

(4)シャンデリア細胞の構造的可塑性の役割とメカニズム

 

(局所コネクトミクスプロジェクト)

大脳皮質は、領野、層といった解剖学的、機能的に異なる構造単位から成り立っていることが知られています。異なる各々の構造単位に含まれる興奮性主細胞は、ユニークな形態的、遺伝学的特性を有し、特異的情報を処理していることが示唆されています。興奮性主細胞の情報処理に深く関与する抑制性神経細胞は、領野、層特異的主細胞の機能特性を決定する重要な因子であることが予想されますが、特定の興奮性主細胞に入力を送る抑制性神経細胞サブタイプの空間空間編成はほとんど解明されていません。我々は最近、サブタイプ特異的遺伝子操作を可能にするマウスライン(Taniguchi et. al., 2011)と狂犬病ウイルスによる回路トレーシング技術を組み合わせることにより、特定の興奮性主細胞に接続する抑制性神経細胞をサブタイプ特異的に可視化する技術を確立しました(Yetman et. al., Accepted)。現在、この技術をさらに発展させ、特定の興奮性主細胞に入力を送る抑制性神経細胞サブタイプの神経活動を可視化することを試みています。これらの技術を活用し、大脳皮質構造単位の解剖学的詳細と発達原理を明らかにし、大脳皮質微小回路の機能原理を明らかにしていく予定です。現在、以下のプロジェクトが進行中です。

 

(1)領野、層特異的主細胞に接続する抑制性神経細胞サブタイプの空間編成。

(2)領野、層特異的大脳皮質抑制回路の発達原理

(3)大脳皮質微小回路機能、可塑性における抑制性神経細胞サブタイプの役割